②入れ歯治療(部分入れ歯、総入れ歯)
- 歯を多く失った人は義歯を使わなければ、認知症のリスクが最大1.9倍に(2003年、「入れ歯と認知症のデータ」・厚労省研究班が愛知県の健康な高齢者4425 名のデータを分析)。
- 歯が少なくしっかり噛めない人は、脳卒中・心筋梗塞や誤ご 嚥えん性肺炎による死亡の危険性が、それぞれ80% 以上高い。
日本歯科医師会と厚労省が推進している「80歳で20本の歯を残して、しっかり噛もう」という8020 運動の2013 年度の達成者は38.3% ですが、2011 年度の歯科実態調査でも、まだ約6割の人が、入れ歯を必要としています。また、8020を達成している人には、生活習慣病や認知症のリスクが少ないことが証明されています。
こうした事実は、入れ歯を入れてしっかり噛むことが人間の生活にとっていかに大切かを、はっきりと物語っているのです。このことを逆の面から考えると、入れ歯を入れることで失った歯の機能を補い、しっかり噛める状態を取り戻すことができれば、生活の質(QOL)を維持しながら健康に暮らすことができます。
実際に寝たきりの要介護の方が入れ歯を入れることで、食生活や栄養状態が改善されて歩けるようになった、さまざまな身体機能が改善されたという話は、決して珍しいことではありません。
お口にあった入れ歯は、しっかり噛めることで唾液の分泌が促され、全身の免疫力を高めることができます。また、豊かな表情を持った口元をつくることで、肉体的にも、精神的にもアンチエイジング(抗加齢)効果をもたらしてくれます。
でも、何度も入れ歯を作り直したけれども、やっぱり合わない、噛めない、痛いという思いをしている多くの方がいるのも事実です。
まずはあなたの入れ歯をチェックしてみましょう。
入れ歯を使用しているあなた。現在のあなたの入れ歯は、どの程度噛める状態でしょうか。次に掲げる入れ歯のレベルチェックを試してみてください。
自分に合った入れ歯で若返り
一般に「入れ歯」という言葉からまず連想するのは「お年寄り」ということではないでしょうか。次に「噛めない、かたかた動く、見栄えが悪い」等々、いずれもマイナスのイメージが強いようです。
入れ歯は、歯を部分的、あるいはすべて無くした人が使う人工の歯です。使っている方にはお年寄りが多いのも事実です。しかし、入れ歯を入れると年寄りのように見られる、というイメージはまったくの間違いです。本来入れ歯とは、歯を失ったために衰えた口の機能を補う人工の歯で、しっかり噛めるように咀嚼機能を改善するとともに、老化を防いで年寄りくさくならないために入れ歯を入れるのです。
歯がなくなってうまく噛むことができないと、顎や頰の筋肉が衰え、口もとに張りがなくなります。容貌はもちろん、好きなものが食べられず、栄養も偏ることで、体力も気力も衰えてしまいます。
入れ歯を入れることでしっかり食べられるようになれば、体に栄養補給ができ、また口の周囲の肌が張って、容貌も回復します。入れ歯とは、機能的にも外見的にも若々しくなるための人工の歯、言い換えると人工臓器ともいえます。
入れ歯の種類
①部分入れ歯
失われた歯が1本以上ある時に適用します。歯の失われた歯茎のドテの部分に入れ歯をのせ、周囲の歯にバネで固定して噛めるようにする方法です。失われた歯が1本のときは、通常ブリッジ治療が行われることが多いのですが、部分入れ歯を選択することもあります。
たとえば失った部分が一番奥の歯で、左右に支えとなる歯がない場合や、ブリッジ治療のために左右の健康な歯を削ることを避けたい場合などです。
②総入れ歯
すべての歯が失われたときに適用します。義歯の下にピンク色の義歯床があって、この義歯床を歯茎のドテにのせて吸着させます。
部分入れ歯、総入れ歯とも保険治療で 作れますが、保険適用の入れ歯は義歯床の材料が限定され、味覚が損なわれたり異物感が出やすい、咀嚼能率が低いのが難点です。
入れ歯では噛めないのが当たり前?
以前は、「入れ歯では噛めない」という考え方が定着していました。入れ歯は自分の歯のようにぎゅっと力を入れて噛むことはできないし、入れ歯と歯茎の間に食べ物が入り込んで痛むし、特に総入れ歯は使い続けるうちに合わなくなってガタついてきて、ますますうまく噛むことができなくなってくる……と
いうのが一般的な考え方でした。
保険治療の入れ歯の場合、使用できる材質も限られていますし、一人ひとりの歯茎の状態に合わせて精密に仕上げていく作業に限界があるのも事実です。
しかし、そもそもなぜ、作った当初はきちんと歯茎に合っていたはずの入れ歯が合わなくなっていくのでしょう?
●軟食を続けていると顎が小さくなり、顎の骨も脆もろくなる
歯をなくしてうまく噛めないと、人はつい噛まなくても飲みこめる、軟らかいものばかりを口にしがちです。入れ歯を作ったあとも、面倒な入れ歯を使わずに、軟らかいものを選んで歯茎だけで食べている人もいるようです。実は、これがいけないのです。
歯茎の中には、歯を支える歯槽骨が存在します。歯を無くしたからといって噛まないでいると、刺激を受けない歯槽骨は、不要なものとしてどんどん吸収され、骨密度が低くなって顎の骨が脆くなり、歯茎もやせてしまいます。つまり骨がやせれば、歯茎もやせます。
だから歯茎にぴったり合うサイズに作られた入れ歯も、しだいに合わなくなってしまうのです。また、合わない入れ歯を入れると、前方の歯だけや片側のほうばかりで噛んだりして、その部分の顎がやせてくるなどの現象が起こります。
入れ歯を使っていても、歯根のある自分の歯で噛んでいたときに比べると骨への刺激はやや落ちますが、噛むことが刺激となって骨密度の低下を防ぎ、骨吸収を防止します。ですから、正しく噛んでいないと本来の歯が植わっていた歯槽骨がやせてくる(顎自体が小さくなってくる)と覚えておいてください。
●入れ歯をつぎつぎ作り直す、という悪循環も……
では、せっかく作った入れ歯を使わない人が多い理由は何でしょうか?
入れ歯を使っている人の多くがおっしゃる不満を挙げてみましょう。
・安定しない(上の入れ歯が落ちる、下の入れ歯が動く)
・しっかり噛めない
・話しにくい
・食べ物の味がわかりにくい
・異物感が大きい
・見た目が悪い(入れ歯を入れていることがすぐわかる)
うまく食べられない、うまく話せない、噛むことができないなど、支障がある入れ歯なら、使いたくないのも無理ありません。しかしとりあえず食べる、話すに支障がないからといって入れ歯を使わないでいると、よく噛まない生活が続くことで歯槽骨がやせていき、咀嚼に必要な筋肉も衰えていきます。こうなるとますます嚥下力(飲み込む力)が低下して、食事もとりづらくなり、栄養状態が悪くなります。そして口元に張りがなくなり、外見もどんどん老けていきます。噛む力が衰えることで、さらに歯槽骨がやせる、舌が大きくなる、唾液が減ったりしてきます。こうなってしまうと入れ歯を作り直そうとしても、合う入れ歯を作りにくくなるという悪循環が起こります。
●快適な入れ歯が必要な超高齢社会・日本
現在の日本は、65歳以上の人口が23% 以上を占める超高齢社会です。日本人の寿命は男女とも世界トップレベルで、高齢者となってからの期間が以前と比べてずっと長くなっています。長い一生をおいしく食べ、自然にしゃべり、楽しく元気に過ごすためには、使い心地の良い快適な入れ歯の存在が欠かせません。
歯科医療は日々進歩しています。入れ歯に関しても、バネを使わない審美性の高い入れ歯や、より自然にお口の粘膜にフィットし、使用していることを忘れるくらい異物感のないデンチャー(入れ歯)や、インプラントで固定したまったく動かないデンチャーなど、さまざまな新しい技術開発が進んでいます。
装着感、噛み心地、審美性にこだわる最新技術の素材を使用したデンチャー(入れ歯)
ここで、より天然歯に近い力でしっかりと噛むことができ、若々しさを保つことを可能にする、最新のデンチャーをご紹介します。
紹介するデンチャーはいずれも保険外の治療で、保険治療のデンチャーに比べ費用がかかりますが、装着感や咬み合わせ、見た目の自然な感じなど、納得のいくものを選んで一人ひとりのお口の状態に合わせたものを作っていくことができます。
現在使っているデンチャーに満足できず悩んでいる方も、ぜひ参考にしてください。
●ノンクラスプデンチャー
周囲の歯にかけるクラスプ(バネ)がない部分入れ歯です。色が歯茎の色に近く、弾性に富んだ素材(ナイロン樹脂や、ナイロン製AI 樹脂、アルティメット樹脂の結晶)でできており、曲げたり落としたりしても割れにくくなっています。目立ちやすい金属製のクラスプがないことで、審美性が高められます。
●テレスコープデンチャー
クラスプを使わない、はめ込み式(=テレスコープ)で、取り外しができるデンチャーです。代表的なものは、周囲の残存歯を金属の内冠で覆い、デンチャーをクラウンのように二重冠で被せて固定するコーヌステレスコープデンチャーです。このほか、かんぬきの原理を応用してデンチャーを固定するリーゲルテレスコープデンチャーがあります。
いずれも審美性に優れ、がたつきもなくしっかりと固定でき、よく噛めるデンチャーです。高い精度が必要となるため、精密な加工技術が求められます。
●アタッチメントデンチャー
アタッチメントというのは、クラスプで入れ歯を固定する以外の方法の総称です。歯と入れ歯を固定(維持)するには一般的にクラスプ(バネ)を使用します。しかし、クラスプは見栄えがよくないので、それを使わず、歯と入れ歯を連結するのがアタッチメントです。通常用いられるのは、デンチャーを固定するための金具を残っている歯に装着し、入
れ歯に取りつけた金具とデンチャーに取りつけた金具とで固定する方法です。
代表的なものは磁石を使った磁性アタッチメントデンチャーで、残った歯根に磁性アタッチメントをつけ、デンチャーのほうに磁石をつけて、強力な磁力で維持する方法です。
歯根の上にデンチャーを乗せるので、オーバーデンチャーとも呼ばれます。
また歯根が残っていない場合に、インプラントを埋入して、それに磁性アタッチメントを取りつけたインプラントオーバーデンチャーもあります。
●素材にこだわるなら金属やシリコン
保険診療内で作るデンチャーの床は素材がレジン(=プラスチック)に限定されていますが、金属床なら厚みを大変薄くすることができるので、装着感に優れ、また、金属は熱伝導がよいので、食事の際にも食べ物を自然の温度に近い感覚で味わうことができます。
ただし金属アレルギーがある場合は、使用する金属に注意が必要です。金属床には金合金、チタン合金、コバルト合金やクローム合金などが使用されます。
デンチャーを装着した際の痛みや、デンチャーが強く当たることによる炎症に悩まされる場合は、デンチャーが歯茎に当たる部分をシリコンで覆う方法があります。シリコンは弾力があるので、痛みがとれて、しっかりと噛む力が得られます。