②美しい口元をつくる矯正治療
芸能人の歯並び、口元に関するうわさは世に絶えないようです。「芸能人は歯が命」というコマーシャルが流行したのはかなり昔の話ですが、芸能人に限らず、一流のスポーツ選手や世界的に活躍する人が、一種のグローバルスタンダードとして歯並びの矯正や、笑顔の美しさに気を配るのは、すでに常識のようになっています。
しかし歯並びを整える必要性は、こうした美しい口元をつくり出すことにとどまりません。歯並びが良くないと、「大きく口をあけて笑えない、笑顔をつくれない」だけでなく、歯磨きがうまくできずに汚れが残って、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
また歯の上下の咬み合わせがずれてしまうので、食べ物をきちんと咀嚼できずに胃腸への負担が増し、顎にかかる力のバランスが崩れて顎関節症などの顎のトラブルを引き起こす要因にもなります。顎関節の歪みは、重い頭部全体を支える首(頸椎)の歪みにつながり、さらに全身の骨格バランスにも影響を与えてしまいます。
歯並びが整っていないと、咬み合わせが悪くなり、その結果姿勢が悪くなったり、偏頭痛、首や肩のこり、腰の痛み、手足のしびれ等のような、さまざまな体調不良につながっていくことがあります。歯の矯正治療は審美的な効果だけでなく、全身の健康のためにも大切な治療です。
矯正が必要になる主な歯列不正
・上顎前突(じょうがくぜんとつ)
上の歯が前に過剰に出て、上下の歯がきちんと重ならない、出っ歯といわれる状態です。
・下 顎前突(かがくぜんとつ)
反対咬合ともいいます。下の歯が上の歯の前に出る状態。いわゆる受け口です。
・上下 顎前突(じょうげがくぜんとつ)
上下の歯が両方ともに前に出ている状態です。
・叢生(そうせい)
乱杭(らんぐい)歯ば ともいいます。歯列からはみだしたり重なっている歯がある状態です。八重歯も叢生のひとつです。
・開咬(かいこう)
奥歯で噛んだときでも前歯が咬み合わず、常に隙間がある状態です。
・過蓋咬合(かがい こうごう)
噛んだとき上の歯が深く咬み込んで、下の歯が正面からほとんど見えない状態です。
・正中離開(せいちゅうり かい)
上顎の前歯の間に隙間がある、いわゆるすきっ歯です。
このほかにもさまざまな状態の歯列不正があります。生涯使う歯ですから、体全体の健康を保つためにも、正しい歯並びをつくることが大切です。
矯正治療の種類
矯正治療は時間がかかります。1、2本の歯を移動するMTM(部分矯正)は1年くらいですが、一般的にフルマウス(全顎)の場合は2〜3年、またはそれ以上かかるケースもあります。その間、歯に一定の力をかけ続けて、少しずつ正しい位置に動かしていきます。そのためにはブラケットを歯に接着し、ワイヤーを装着し続けなければなりません。
また、歯を移動させるためには、定期的にワイヤーを入れ換えたり調整したりする必要があります。さらに矯正治療をしていると、うまく歯を磨くことができなかったり、部分的に磨けないところが出たりして、虫歯や歯周病になりやすいので、定期的にメンテナンスをすることが大切です。
矯正装置は、マウスピースや床装置などさまざまな形式が考案されていますが、今日ではブラケットとステンレスワイヤーを使ったシンプルな形状で、見栄えがよくなり、治療方法の選択肢も増えてきました。歯科医院では、頭部X線規格写真(セファログラム)を撮り、一人ひとりの患者さんの歯や咬み合せの状態を検査・診断して、最もふさわしい治療法を選びます。症状によっては希望される矯正装置が使えないこともありますので、事前によく歯科医師とご相談してください。
歯の矯正治療はアメリカで生まれました。1920年代末、Dr.アングルが考案したエッジワイズ法が基礎となり、その後ツイード法や、さらに発展してストレートワイヤーでコントロールするアレキサンダー法が考案されています。
●アレキサンダーディシプリン法・頰側矯正
歯列矯正の臨床家として世界から評価されているアメリカのアレキサンダー氏が考案した方法です。
ブラケットにアンギュレーションをつけ、強いトルクで、複雑なワイヤー形状のものから、ストレートでも持続的に小さな力をかけて、歯を移動させていく方法ですが、その登場には形状記憶合金が不可欠でした。
従来はワイヤーを曲げていましたが、形状記憶合金であるニッケル・チタンワイヤーを使うことで、ストレートでも弾力があるので歯にやさしく、見た目のよい、患者さんへの負担が少なく、満足を得られる矯正治療ができるようになりました。
矯正治療には患者さんにアプライアンス(装置)をセットして、歯の動きを常にコントロールします。歯や顎を最初の位置から歯にダメージを与えることなく移動させることで目標を達成します。その方法・考え方をディシプリン(学問・訓練)したものです。当院でもこの矯正方法を基本としています。
歯の表側にブラケットを接着して、そこへニッケル・チタン製のアーチ形ストレートワイヤーを結紮(けっさつ)し、歯を3次元的に移動させます。近年はセラミックブラケットや、透明感のある素材でできたクリアブラケット、プラスチックのカラーブラケット、さらにゴールドや透明など、歯茎にもなじみやすい色の目立たないワイヤーも登場しています。
●リンガル法・舌側矯正
歯の内側にブラケットを接着し、アプライアンスを舌面形状に合わせて作り、歯を移動させる方法です。正面からみて装置が見えないのが利点ですが、舌に触れる側に装置があるため、違和感を感じたり、しゃべりにくいと感じる人もいるようです。こうした不具合を軽減するため、近年はCAD/CAМを使ったオーダーメイドの、舌に違和感の少ない矯正装置もできました。
●インビザラインシステム
取り外しのできる透明のマウスピースを使用する方法です。装置が取り外し式で、ブラケットやワイヤーも装着しないので、ほとんど目立ちません。比較的簡単な症例の場合に適用できます。
●コルチコトミー(外科的矯正)
歯を支える歯槽骨の表面にある硬い皮質骨を取り除いて、歯を移動させやすくする方法です。治療期間が約半分になるので、スピード矯正と呼ばれることもあります。
●被せ物で歯並びを美しくする
被せ物を使って歯並びを整える矯正です。
補綴矯正ともいい、オールセラミック、ラミネートベニアやe.max などの金属を使わない人工の被せ物(補綴物)を使用します。数週間程度という短期間で歯並びを良くすることができます。矯正の名はついていますが、実際に歯を動かすわけではありません。場合によっては歯を削ったり、歯の神経を取るなどの処置が必要ですが、歯並びが後戻りすることもなく、セラミックスを使用するので自由に歯の色や形を再現することができます。