お口からはじめる新型コロナウイルス対策/歯周病を撃て
私たちはその歴史の中で、幾度となく細菌やウイルスによる感染症に襲われてきました。
ウイルスや細菌の誕生が人類の誕生以前の出来事ですから、人の誕生とともに感染症との闘いの歴史が始まったといっても過言ではないでしょう。
スペイン風は5億以上の人が感染、日本でも2500万人が感染した
古くはペスト(中世ヨーロッパにおいて人口の3分の1が死亡したといわれています)や世界中で5億人以上の者が感染し、死亡者数が2,000万人とも4,000万人ともいわれる1918(大正7)年からのインフルエンザの汎流行(パンデミック)(「スペイン風邪」)(我が国においても大流行し、2,500万人が感染し、38万人が死亡したといわれます)など、感染症は多くの人類の命を奪ってきました。
一方では、18世紀以降、ワクチンの開発や抗生物質の発見により、感染症の予防・治療方法が飛躍的に進歩しました。ワクチンによる予防効果は劇的で、1980(昭和55)年には世界保健機関(World Health Organization:WHO)による天然痘の根絶宣言という人類にとっての金字塔が打ち立てられるなど、一時は感染症はもはや脅威ではあり続けないと思われていたのです。
しかしながら、それと前後して、1976(昭和51)年にエボラ出血熱、1981(昭和56)年にエイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)が出現するなど、ここ30年の間に少なくとも30の感染症が新たに発見されています。これらを新興感染症といい、21世紀に入った現代生活においては、人や物の移動の高速化に伴う感染症の地球規模での流行、食生活の欧米化や生活環境の変化に伴う生活習慣病等の増加、家庭・地域社会における関係の希薄化や社会・経済構造の変化等に伴うストレスの高まりと心の病の増加などが見られます。これらは、日常生活の中で高まりが見られる健康リスクということができるのです。
新型コロナウイルスとの闘いは現在、特効薬もワクチンもない「素手での闘い」
さて、現時点で新型コロナウイルスの特効薬や、ワクチンはありません。根本的な解決とは程遠いと言ってもいいでしょう。ただ、この感染症との闘いで特効薬やワクチンなしで対抗できたのは、私たちが本来持っている身体の免疫、防御能力のおかげだといえます。
コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じ、エンベロープ(皮膜)を持つ種類のウイルスで、他のウイルスと同様、生きた細胞に入り込まないと生きてはいけません。また細胞の中でしか仲間を増やせない<パラサイト>です。
ウイルス細菌の侵入ルートは
感染は狙いをつけたノドの粘膜細胞のレセプター(細胞膜にある受容体:入口)に細胞やウイルスが吸着すると、自分を包む膜と細胞の膜を一体化させて、スルリと内部に侵入します。侵入したウイルスは自分の遺伝子を細胞の中にウイルスの遺伝子を放出します。放出した遺伝子は侵入した細胞のタンパク質やエネルギーを使ってウイルスの遺伝子を増殖させていきます。このようにして、ウイルスが細胞を乗っ取るわけですが、粘膜細胞も簡単に乗っ取られるわけではありません。
通常ノドなどの粘膜の細胞は豊富な粘液で覆われています。ウイルスが細胞のレセプターに吸着しようとしても粘液が吸着の邪魔をします。この機を逃さず、<ガラガラうがい>をすれば、凶悪なウイルスを追い出すことができます。ウイルス感染から身を守るために「帰宅したら必ずうがいをしましょう」というのはこういう理由からです。
歯周病菌が細菌ウイルスの侵入、増殖を助ける
さて、もう一つ大変重要なことがあります。粘液による防御作用を弱くするのが歯周病菌であるということです。
歯周病菌が排出する酵素にプロテアーゼ、ノイラミニダーゼというものがあります。これらの酵素が多く排出されると、口腔内の粘膜細胞のレセプターを露出させ、またレセプターに吸着したウイルスを侵入させやすく、増殖しやすくさせて、発症リスクを高める恐れがあることがわかりました。つまり歯周病の管理をして、歯周病菌プロテアーゼや歯周病菌ノイラミニダーゼの排出を抑えるたいへん有効であると言えそうです。
歯周病菌が感染症だけではなく糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞全身の病(生活習慣病)についても色々と関係すると言われています。これらも同様のメカニズムで感染やその進行を助けているのではないかと思われます。
ぜひ一度歯周病の検査を受けて下さい。また、治療を受けておられる方は、継続して治療をして下さい。